△ 日本人の劣る點 ▽ A ーー して稀であらうとか、屢々(しばしば)であらうとかは、一體何を意味するのでせう?
Z -ー これらの中には意味の判らぬものではないが、大體に於いて動物と比較し、或は人間が母の胎内にある間の歴史を比較すると意味が生じて来る。胸骨筋は通常の人間にはないが、動物にはある。長掌筋も人間にとつて漸次、消滅すべき筋であるが、日本人には未だ残つているのが西洋人より頗(すこぶ)る多い。何れも日本人によつて頗る光栄ならざることである。また内眦(ないさい)の小軟骨は動物には常に存在し、劣等のシンボルである。
脊髄から上肢に走る神經が一束になつていることも動物には甚多い。かく日本人が西洋人よりも劣等な徴候は、他にもまだ澤山ある。だが悲観するには及ばない。今度は西洋人のあら探しをやつて見やう。
△ 西洋人の劣る點 ▽ Z -- 長蹠筋は長掌筋と同じく、人間には次第に退化しつつある筋であるが、西洋人には未だ消滅し切れずに残つているのが、日本人より率が激しい。日本人は手に西洋人は足に野生に存しているわけか・・・・・。前膊の前に於いて皮下を走る動脈は動物に見る所のもので、西洋人に多い膝(ひざ)の後の動脈幹が高い所で二枝に分岐すること、腋下の大きな汗腺も同様と思ふ。然して脳髄の表面には澤山のうねりがあつて、之れにつき多くの學者が人類學上の研究を試みたが、今日まではこのうねりに於いては日本人、西洋人の確實な人種的の差異が見出されない。
△ さて總勘定は? ▽ A ー- さて、かうなると總勘定をして差引幾らになるでせう?
Z -- 實はまだ總勘定が出来ていない。微細な點まで調査しなければ本當のバランスシートが作れないので、今後、數十年の研究を要するであらう。しかし、一期一期、凡(およ)その決算報告は出来ている。自分はそのうち、動脈系統だけは數百の死體の解剖で各々數百ヶ所を調てみた所、數百ヶ所に於いて日本人と西洋人との間に相違が認められた。これだけの範圍で總勘定すると、結局、兩人種に大差なく、寧ろ西洋人の方に負債が多い。將来、靜脈や神經等々の系統を全部調べて動脈系統のやうな結果ができるとすれば、日本人と西洋人との間に大した相違をないことは勿論、日本人の方が稍(やや)優秀であるべきである。元来、西洋人は自惚の強い人間で、彼等は大した根據がなくして、最も高等の人間であると獨りぎめしてをるして、體質の優秀を論ずるには動物との比較、生れるまでの歴史を土臺に置くべきであるのに、彼等は自分を土臺にしている。即ち、未知數と既知數とを取違へているのだ。例令(たとえ)ば、人間には毛がなくなつた。しかし西洋人には毛深い。そこで彼等は少からざる説明に窮し、色々とでつち上げても何うもうまく行かぬ。之れを我々に説明せしむれば、單に毛唐人はまだ毛が抜け切らぬと云ふだけで、簡單明瞭である。所が毛深い點が彼我入れ替へつていようものなら、彼等はこの説明に少しも困難しないであらう。西洋の學者は甲人種は乙人種よりもすべての點に於いて優り、または劣ると考へていた。之れは彼等の非常な誤解である。